田舎暮らしに憧れる、都会から離れて生活してみたい、と一度は思う人に伝えたいことがあります。
それは、田舎暮らしを安易に考えると危険ということです。
みなさんは「田舎暮らし」のイメージをどのように思っているでしょうか。
自然が豊かで、空気もきれい、深い人情と触れ合える、そんな素晴らしいスローライフが待っているような気がしますよね。
しかし、現実の田舎はそんなに甘いものではありません。都会での常識が地方田舎では通用しないことが多々あります。
今回紹介する「田舎暮らしに殺されない法」は、そんな田舎生活の厳しい現実が淡々と綴られている本です。
主に定年退職を迎える60代の方向けに書かれてある本ですが、田舎生活を志そうとしている全ての人に知っておきたい内容です。
わたしも実際に田舎に住んでいて、うなずける内容が多々あったので感想も含め、紹介します。
その前に自立しているかを問え
田舎暮らしを考える前に、「自分が自立しているか」を問うことです。
ひょっとすると、あなたは都会の生活で得られなかったすべてが田舎において手に入るという、ほとんど妄想に近い幻想を抱いているのではないか。
あなたは田舎というところをどのくらいの深さまで見定めてから、どの程度の裏情報を得てから、あまりにも大胆で幼稚な決断に至ったのか。
案ずるより産むが易しという行けばどうにかなるという考え方は、あまりにも甘い考え。
田舎暮らしの厳しさより前に、自分自身の考え方の甘さを思い知らされる作者丸山さんはのことばです。
ではなぜ、田舎暮らしを思いついた途端に、田舎=厳しい環境であるという常識をすっぽり抜いてしまうのでしょうか。
この答えは簡単で、自立精神の欠如によるもの、だということです。
自立していない人ほど現実逃避し、それが都会逃れになっている原因なんですね。
自分はほんとうに自立している人間なのかを問う。
親、学歴、職場、社会、家庭、酒に依存していないか。
世間から逃げて逃げて逃げまくってはいないか。
しかし、田舎に移住を考える前に、今一度自分自身の自立度を考えておくといいかもしれません。
確固たる「目的」を持て
自立の精神に伴って、「なぜ、自分は田舎に行きたいのか」をしっかり考える必要があります。
「空気がきれいだから、自然が美しいから、深い人情と触れ合いたいから、、、」
その程度の動機がすべてならやめておいたほうがいい。
なぜなら、泣きを見ることは必至だから。
これには、大半の人がグサッとささるのではないでしょうか。
田舎に移住する動機なんて、だいたい都会にはない利点で埋め尽くされています。
でもそれでいいんじゃない、と思う人もいるでしょう。
「やらなかったときの後悔のほうが、やってしまった後悔よりもはるかに重く大きいはず」
「これは誰の人生でもなく、おれの人生なのだから好きなようにさせてもらう」
このように考え方に、丸山さんは一喝します。
一見もっともらしいその勇ましさと潔さは、駄々をこねる幼児と同じ。
非常に高くつく衝動買いと何ら変わりのない、愚行中の愚行。
うわっつらだけじゃない、上品な言葉だけ並べないところがよく身に染みます。
確固たる目的の例としては、
・世間と距離をとってアートに集中したい
・厳しい自然の中で精神を鍛えたい
など、己を磨く要素が目的にあれば、田舎に限らずどこでも自立して生活していくことができるんじゃないかと思います。
「自然が美しい」とは「生活環境が厳しい」と同義である
自然が美しいという評価の裏を返せば、生活環境としてはかなり厳しい、ということを強く伝えられています。
本書は2011年に発行されたので、現在よりも地方整備が追いついていない地域もあったと思います。
だとしても当時、いやそれ以前の「自然が美しい」ままの場所は、「生活環境が厳しい」ことに変わりはありません。
たしかに、わたしもそれを実感した出来事がありました。
以前ホタルの名所といわれる地にいったときのことです。
ホタルはひとけのない、空気や河がきれいな場所にしか生息しません。
その名所は、駐車場はあるものの、なんと街頭がひとつもなく、漆黒の闇とばかりの真っ暗闇でした。
灯りが消えたら身動きがとれない状況に、楽しみどころか恐怖を覚えた経験でした。
自然が美しいと、厳しい環境は表裏一体。
このことをよく考えさせられる内容です。
年齢と体力を正確に把握せよ
本書は、第二の人生を送ろうとしている50、60代の目線で書かれてあるので、年齢や体力についても言及しています。
田舎暮らしとセットである農作業についての悩みです。
素人が60歳を過ぎてから本格的な農業をはじめるのは至難の業。
最初の収穫の感動は長くは続かず、取れすぎる野菜に悩まされる。
プランターや自宅内で育てる小規模な野菜作りならまだしも、農作業と収穫の結果が割に合わないことをよく理解しておく必要があります。
農村地帯がなぜ過疎になったのか。
それは、農作業の辛さと農業が採算に合わないこと、高齢者の体力では到底無理であるという現実をよくよく承知しているから。
ほかにも、雪国なら除雪作業を余儀なくされたり、小規模な災害が起きてもその程度の始末は自分たちでやってのけなければならなかったりします。
挙句に、ばったり倒れても救急車が来るまで時間を要してしまい、助かる命も助からない可能性も視野に入れなければなりません。
自分の体力、年齢を考慮した上で田舎生活をイメージすることがどれだけ重要かが分かります。
田舎暮らしを考えるなら、まず酒と煙草をやめよ
酒や煙草への依存は、田舎暮らしでなくとも人生に大きな悪影響を与えます。
ストレスを無くすために田舎に移住したはずなのに、ストレス解消のため酒を飲んでいたら意味がありません。
そもそも、庶民が毎晩酒を飲めるようになったのは、ここ数十年のこと。
それまでは、盆や正月、祭事や冠婚葬祭のときに限られていたそうです。
丸山さんは、「酒に頼らなければもっともっと素晴らしい楽しみがある」と述べています。
毎日習慣的に飲んでいる人はすぐにはやめられないかもしれません。
しかし、煙草やお酒を飲む習慣を減らしていくことが快適田舎ライフの入口という事実を受け入れることが大切です。
「孤独」と闘う決意を持て
田舎へ行けば、少なからず社会と疎遠になります。
その孤独さを埋めようと、ボランティアをしてみよう気持ちが生まれます。
しかしボランティアより優先すべきなのは、まず自分自身を助けること。
ボランティアは心身共に余裕のある人が行うべき。
自分が満たされていないのに、人を助けることはできない。
連れ合いがいたとしても、孤独を受け入れること、その上で自分自身が幸せになることが何よりも大切ですね。
「妄想」が消えてから「現実」は始まる
田舎の壮絶なイメージギャップが綴られた内容です。
豊かな山々ばかりに目がいきますが、その一方で、企業や行政による横行な問題も山程です。
企業の産業廃棄物や騒音などの横暴な振る舞いは、田舎において特に顕著。
行政も環境問題に対しあまりにも鈍感で、少々のリスクを背負ってでも金が入ればそれでよし。
社会の構造は、どこの地域でもどこの国でも同じですね。
企業や行政などの組織は、基本的に性悪説。
だとしても正義を貫いて意見する者はいない。
なぜか。
それは、農耕民族ほど、長いものには巻かれろ精神が骨の髄まで染みついているから、だそうです。
無知な者ほど搾取される田舎の現実は、果たして、わたしたちが妄想とかけはなれていたんでしょうか。
田舎は「犯罪」の巣窟
田舎ほどセキュリティが甘い地域は、窃盗や詐欺の恰好の餌食です。
田舎における犯罪の発生率は年々高まっている。
地元警察も有効的な対策を講じていないため、当てにならない田舎に犯罪者はいない、という先入観は捨てること。
別の章ですが、田舎の土地購入の注意喚起もなされています。
「土地の安さに目がくらむと重大な失敗となる」
「買った時の値段で売れないばかりか、1/5以下に値下げしても売れず、おめでたい都会人のカモを探すしかない」
田舎移住の犯罪対策は必須です。
自分で自分の身を守ることの意味が、都会の感覚とは少しズレているかもしれません。
ほかには、治安の悪い土地に移住しないことが対策のひとつとして挙げられていました。
土地柄を聞くのに効果的なのは、病院の待合室で集まる人々、駐在所の警官、小中学校の教師だということも覚えておくとよいでしょう。
田舎に「プライバシー」は存在しない
田舎の住民たちがあなたのことをいちいち温かく迎えなければならない理由などない。
田舎でプライバシーをきちんとわきまえたお付き合いを期待するのは収支千万。
田舎暮らしはとことん厳しいことがよく分かります。
地元住民は、集落全体をひとつの家とみなし、親密な関係を築いていて暮らしています。
そうすることで厳しい環境を幾度も乗り越えてきたんです。
ある意味、民族的な価値観が感じられますが、地元住民は都会からの移住者を厳しく見ているという事実を知っておく必要があります。
ジモティーと付き合いも田舎暮らしの義務。
「付き合わずに嫌われる」ほうが底が浅く、「付き合ってから嫌われる」ほうが数倍も根が深い。
とありますが、丸山さん曰く、無理に垣根を取っ払うことはしないほうがいいそうです。
人間関係の悩みはどこに行っても追随されるものだということが分かりました。
「第二の人生」について冷静に考えよ
あなたにとって一番身近な、そして大切な自然はあなた自身。
自分を守れないような者が、どうして大自然を守ったり愛したりすることができるのでしょう。
本書で伝えたいことは、田舎の厳しさもそうですが、自分自身の心を何よりも豊かにすることを繰り返し述べています。
都会離れという現実逃避するのではなく、登山やフラダンスのような田舎ブームにも流されず、年齢にふさわしい、落ち着いた生き方を選ぶ必要がある、ということを教えてくれた本となりました。
現在のわたしの移住地は最低限のインフラは整っているものの、30分ほど車を走らせれば立派な“田舎”があります。
田舎暮らしをはじめたい、と考えているのであれば、その隠れた実態を学んでみてはいかがでしょうか。